野球の「や」midashi
大人気野球ブログ『野球の記録で話したい』を運営するライターの広尾晃氏が、これまでとは全く違った視点で描く「野球入門」です。目標は『野球に興味がない』という女子を試合に足を運ばせ、最後には『あの投手は防御率が悪すぎるよね!』と言わせること。生粋の野球オタクによる、前代未聞のチャレンジ、今回は「野球場グルメ」

野球観戦はビールだ!とは言ったが、試合前から入場して3時間以上、ビールばかり飲んでいるわけにもいかない。

美味しいからと言って何倍も飲んでいると、ぼうこうが大きくなってトイレに立たなければならなくなる。半券を握りしめて(忘れるなよ!)、隣に座っている人に「すいません」を連発してトイレに向かう。そこには同じように飲んべの女子がずらっと並んでいる。ああ、いつになったら…みたいなことになりかねない。

それにビールばっかり飲んでると意識がぼおっとして「寝落ち」の可能性もある。

 

やはりビールの合間に「何か食べる」ことも必要なのだ。

 

何を食べる?

 

NPBの本拠地球場には実にたくさんの売店が並んでいる。おなじみのファーストフードから、球場オリジナルのフード、季節によっても食べ物は変わる。

 

子ども連れのお客などは「マックぅー」関西なら「マクドぉー」と叫ぶ子供たちに引っ張られてマクドナルド(QVCスタジアムはロッテリア)などのファーストフードを選びがちだ。その味ならばとっくに知っているし、どこで食べても味は変わらないし、安心感がある。

 

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でも、それはあまりお勧めしない。

ちょっと熱い考えかも知れないが、「野球場で食べる」というのは「その日、そのスタジアムで起こったこと」と記憶でヒモづけられるべきだと思う。

つまり「ハマスタで阿部慎之助のホームランを見たとき、私はしうまい弁当を食べていた」みたいな。

これがマクドナルドやロッテリアでは、インパクト的に弱い。

美味しいとは思うけども「わざわざここで食べなくても」ということだ。

 

かといって「グルメ」にこだわる必要もない。

せまい球場のシートに座って

「うーん、このプロバンス風の煮込みは、ハーブの香りが爽やかな風のように鼻をくすぐっていく。この味に合うワインは・・・

とかやれと言っているわけではない。

何しろ真横で「ほーむらん、あべしんのすーけ!」とか叫んでタオル振り回してる兄ちゃん姉ちゃんばかりなのだ。

 

やはり球場では「ここでしか食べることができないもの」を食べたいということだ。

 

野球場の老舗と言えば甲子園。甲子園球場には昔から「名物フード」があった。kachiwar

一つは「かちわり」。ビニール袋に氷を入れたもの。単にそれだけだが高校野球の応援には欠かせない。

「かちわり」の氷は透明で純度が高く、なかなか溶けない。六甲山の「宮水」で作られているからだという。

ビニール袋にストローを差して渡してくれる。飲んだり、おでこに当てたり、なかなか便利なものだった。生ぬるくなったビールに氷を入れたりするおじさんもいた。

最近は、「かちわり」にジュースを入れてチューチュー飲む人もいる。

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「甲子園カレー」も良く知られている。

あのカレーを家に持ち帰って食卓で食べても「?」と思うはずだ。昔ながらのカレーだから、そんなにいろんなスパイスが入っているわけじゃない。お肉だって多くない。

でも甲子園で食べるのは「あのカレー」なのだ。

要するに「球場で食べるから美味い!」ものを食べるのが正しいのだ。最近はミンチカツカレーとかチーズカレーなんかもあるが、やはりシンプルに普通のカレーを食べよう。

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球場ではオリジナルの弁当を販売している。選手名を冠した弁当なんてのもある。それぞれ工夫を凝らしていておいしい。

私が印象に残っているのは2010年、千葉ロッテの「金泰均(キム・テギュン)弁当」。この年から加入した韓国の強打者にちなんだ弁当だが、キムチが利いてビールにもよく合った。

東京ドームなどはかの有名な「叙々苑の焼肉弁当」もある。

京セラドーム大阪では「環状線弁当」。大阪名物のタコ焼きなども入った賑やかな弁当だ。

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しかし、最近の球場の弁当はみんな大きい。狭いシートで食べるには大きすぎる。野球に熱中しながら食べるには量も多い。

食べきれないときに置いておく場所もない。トイレなどで横の人が移動してきたら、でかい弁当を持って立ち往生してしまう。

よくラーメンやうどんなども買う人がいるが、汁モノは危なっかしい。こぼす危険もあるが、麺をすすっているときにしずくが飛び散る。こういうところでわざわざ食べる必要はないんじゃないか。

ときどき手作りの弁当を持ってくるお客もいるが、どうかと思う。

タッパーから食べ物を回したりしているのを見ると、申し訳ないけど、私はいらいらする。「どわー!と球場が沸いているときに、おにぎりを回すんじゃない!運動会じゃないんだ!」と憎まれ口をたたきたくなる。

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気が利いているのは、小さいお弁当。少しふれたが、ハマスタの「しうまい弁当」は素晴らしい。

正確には球場の弁当ではなく駅弁だが、球場内でも売っている(ちょっと高い!)。
コンパクトにおいしいものがぎゅっと詰まっている。しうまいをかじってはビールを「じるっ」と飲み、プレーを見て、またしうまいをかじる。

15分もあれば食べ終わることができる。そういうのがいい!

私は球場では「ここでしか食べることができないもの」がいいと言ったが、今まで見た中で一番恰好いい野球場での「食」は実は「球場グルメ」ではなかった。

はるかな昔、大阪の繁華街のど真ん中にあった大阪球場のバックネット裏。

試合開始直前に、白い割烹着姿の料理屋の大将がお決まりの席に座る。

「おい、ビール」とビールを売り子から買って、

手に持った竹皮の包みを開くと、切っていない細巻の寿司を手に取る。ビールをひとくち飲んでは寿司にかぶりつく、またビール。目はグランド内に向けたまま、瞬く間に食べ終わった。

手も汚れない、弁当ガラなどのごみも出ない。料亭の有り合わせの素材で自分が作ったのか、若い衆に巻かせたのか、味だって悪くない。見た目も粋だ。これは最高だと思った。

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野球場で食べる「食」はスマートでありたい。格好良くありたいものだ。
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(ゆるすぽ編集部)